【感想&レビュー】狂気的な戦場を生き抜く兵士の日々を描いた衝撃の感動作!|ペリリュー -楽園のゲルニカ-
『ペリリュー-楽園のゲルニカ-』-(白泉社).webp)
1994年、太平洋戦争末期のペリリュー島で壮絶な争いがあったことはご存知でしょうか?
当時のアメリカ軍は圧倒的な戦力差をもって数日中に攻略するつもりだったようですが、日本軍の徹底的な持久戦で最終的に2ヶ月半もの時間を要しました。しかし、その戦果は多大な犠牲の上で成り立ったものであり、英霊たちの尽力があったことを忘れてはいけません。
「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」はペリリュー島で起きた歴史的真実ではなく、当時の戦場を必至に生き抜いた若者たちの生き様をまざまざと描いています。歴史の教科書や文献からでは読み取れない、兵士たちのリアルな息づかいを感じたい方は、ぜひ手に取ってみてください。
この記事では、読むことも描くことも大好きな漫画オタクが「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」を読んだ感想を綴っています。読んでみようか迷っている方の参考になれば幸いです。
評価時の読了巻数:11巻(2025/9/12)

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「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」を読んだ感想
敵を倒すどころか、生きるだけで精一杯の戦場。
この場に自分がいたとしたら、腐らずにいられないと思う。だからこそ、物資も食糧も枯渇している状況のなか、他人に気遣える優しさを最後まで持ち合わせていた主人公には賛辞を送りたい。
今の日本を残してくれた英霊たちに感謝を伝えたくなる作品だった。
また、ペリリュー島から生還した日本兵の「話を聞けば体験していなくても描けるとお考えですか?」という言葉にも深い感銘を受けた。どうしたって漫画や映画は実体験よりも劣ってしまうわけだから、鑑賞する側も作品から戦争体験者の想いを汲み取る想像力と読解力が必要なのかもしれない。
戦争を知らない世代に是非とも届いて欲しい作品です。
「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」のおすすめポイント2選

太平洋戦争末期のパラオ諸島「ペリリュー島」。
サンゴ礁の海に囲まれ、美しい森に覆われた楽園にはマンガ家志望の田丸均(たまるひさし)をはじめ、多くの若者たちがアメリカ軍と戦う兵士として駐在していた。
しかし、侵攻するアメリカ軍は兵員数4万と艦艇800隻に対し、日本のペリリュー島守備隊はわずか1万……。圧倒的な兵力差を前に日本軍は、洞窟を拠点とした徹底的な持久戦を強いられてしまうのだった。
日米合わせて5万人の兵士が殺し合う狂気的な戦場で、若者たちは何のために戦い、何を思って生きたのか?
過酷な時代を生き抜いた人たちの「リアル」に迫る!
教科書には載らない煩雑とした兵士の葛藤や苦悩が描かれている!
「お国のために勇ましく戦って死ぬのが誉れ」と信じられていた時代、戦場に身を置いていた兵士たちは果たして本当にそう思いながら戦いに臨んでいたのだろうか?
歴史の教科書は戦争があった事実を教えてはくれますが、そこにいたであろう兵士のことは何も教えてくれません。
この漫画はキャラクターこそフィクションではあるものの、彼らから伝わる感情は真に迫るものがありました。ヒロイズムに酔う兵士の狂信的な言動をはじめ、何としてでも生き延びたいと思う兵士の醜悪な一面が垣間見える瞬間は、否が応でも「戦争」の異常性を突きつけられます。
本来なら真っ当に生きていけたはずの若者たちが狂気的な戦場で正気を失っていく様子に絶望を禁じ得ません。戦時下における極限状態の人間をありのまま描いていたと思います。
ただでさえ数少ない戦争経験者が急速に減少している現代において、この漫画が戦争の記憶を次世代に伝えていくツールのひとつになることは間違いないでしょう。
デフォルメされた絵で描かれる戦争のリアルな「死」!
最初こそデフォルメされた可愛い絵に目が行きがちですが、読み進めていくほど戦争の惨禍をまざまざと見せつけてきます。リアル調の絵で描かれていたら、最後まで読めなかったかもしれません。
作中では傷口にウジ虫が湧いたり、火炎放射器で黒焦げにされたり、敵の死体を損壊させる様子もぼかすことなくしっかりと描写されていました。デフォルメされているとは言え、絵から受ける衝撃は凄まじく、現実はもっと悲惨であっただろうことが容易に想像できます。
また、戦場における脅威は「敵兵」だけとは限りません。
病気はもちろん、食糧難や水不足とも戦わなければいけませんし、場合によっては味方同士で争うこともあります。現代の価値観からすれば、これらのような身も蓋もない死に様は馬鹿馬鹿しく思えるでしょう。
しかし、戦争での死に様を美化させずに描くことで、戦争がもたらす虚無感を鮮烈に伝えています。これほどまでに戦争のリアルな息遣いを体感できる作品には、もう二度と出会えないかもしれません。
こちらの作品もいかがですか?

この世界の片隅に

こうの文代先生による戦争漫画。戦時中の広島県を舞台に主人公が生きる一日一日を描いた作品です。
「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」とは違い、戦場に身を置く兵士ではなく、戦時中の日本で暮らす一般女性の生活にスポットライトを当てており、間接的に戦争の悲惨さを表現しています。
別の視点から見ることによって戦争への理解がもっと深まるのではないでしょうか?
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さよならタマちゃん

同作者によるエッセイ漫画。35歳にして「精巣腫瘍(せいそうしゅよう)」という睾丸の癌に罹ってしまった武田先生のリアルな闘病生活を綴った作品です。
入院生活から垣間見える患者の人間ドラマや医療従事者の想い、そして癌と闘う武田先生の葛藤を描いており、言葉にならない優しさと切なさで胸がいっぱいになります。
「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」が面白いと感じた方は、こちらの作品も読んでみてください。
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信長を殺した男 ~本能寺の変 431年目の真実~

藤堂裕先生と明智憲三郎先生による歴史漫画。
戦国最大のミステリーとも呼ばれる「本能寺の変」を謀反人である明智光秀(あけちみつひで)の視点で描きながら真説に迫る作品です。ただし、光秀が謀反を起こした理由については、400年以上経った現代でも定説が存在しないため、本作の歴史が必ずしも真実とは限りません。
「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」のようなフィクションとノンフィクションを絶妙な塩梅で織り交ぜた作品が好きな方には、刺さる作品だと思います。
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あとがき
「戦争マンガの新たな傑作」と呼ばれているとおり、最初から最後まで魂が震えるような深い感銘を受けました。普段は滅多に読まないジャンルなのもあり、中々に重い読後感であったことを今でも記憶しています。
とある雑誌の情報によれば、芸人の井上裕介(NON STYLE)も「ペリリュー」を愛読しているらしく、本人の推薦コメントからも心に響く読書体験だったであろうことが伺えました。
この作品はフィクションであっても作品内で語られる人の気持ちはフィクショではありません。戦争と平和を語り継ぐ作品のひとつとして、これから多くの世代に届くことを願っています。
ちなみに先ほど話題に出した雑誌は「BRUTUS特別編集 合本 マンガが好きで好きで好きでたまらない」です。あらゆる業界の著名人が面白い漫画を紹介しているほか、近年の漫画業界を分析したコラムや漫画史の変遷が詳しく解説されているので、気になる方は読んでみてください。

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